■審決
■原告
主文
【A事件】1 被告Lは原告信用保証協会に対し7290万7027円とうち6445万9720円に対する平成16年4月22日から支払いずみまで年14.5%の割合(年365日の日割計算)による金員を支払え。
2 前項の裁判は仮執行をすることができる。
【B・C事件】
3 被告Lの請求をいずれも棄却する。
【A・B・C事件】
4 訴訟費用はA・B・C事件を通じ全部被告Lの負担とする。
事実および理由
第1 請求
1 A事件主文第1項と同じ。
※ この訴訟物は,被告M信金とN社との間の金銭消費貸借契約上のN社の債務を信用保証した原告信用保証協会が,その保証債務の弁済による代位によって被告M信金から取得した,N社の保証人である被告Lに対する貸金債務の保証債務履行請求権である。
2 B事件
被告M信金は,
(1) 別紙物件目録1〜7記載の各土地について別紙登記目録1〜4記載の各根抵当権設定登記の,
(2) 別紙物件目録8〜14記載の各土地と同物件目録15記載の建物について別紙登記目録5記載の根抵当権設定登記と同登記目録6記載の抵当権設定登記の,各抹消登記手続をせよ。
※ この訴訟物は,被告Lの土地建物所有権に基づく妨害排除請求権としての根抵当権設定登記または抵当権設定登記抹消登記請求権である。
3 C事件
原告信用保証協会は別紙物件目録1〜7記載の各土地について別紙登記目録2記載の根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。
※ この訴訟物は,被告Lの土地所有権に基づく妨害排除請求権としての根抵当権設定登記抹消登記請求権である。
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第2 事案の概要
1 基本的事実関係(当事者間に争いがないか,【】内の証拠により認める)【A・B・C事件共通】
(1) N社
N社は土木工事業などを目的とする会社であり,その代表取締役はOである。被告LはOの父親である。
(2) N社の商号変更・組織変更
N社は,平成5年2月8日に有限会社P社が有限会社N社に商号変更し(登記は同月16日),これを平成7年9月1日に株式会社に組織変更して設立した(登記は同月20日)会社である【丙6,9】。
(3) 信用金庫取引約定
被告M信金は平成3年11月15日P社と信用金庫取引約定を締結した。
この取引約定には,P社が債務の一部でも履行を遅滞したときは被告M信金からの請求により被告M信金に対するいっさいの債務につき期限の利益を喪失する,遅延損害金は年18.25%の割合(年365日の日割計算)とするとの定めがある。【丙1ないし3,乙28】
【A事件】
(4) 当座貸越による貸付け
被告M信金は上記信用金庫取引約定に基づき平成9年9月10日N社に対し以下の約定で当座貸越により貸付けをするとのダイナミック・ローン契約(当座貸越契約)を締結し,以後貸付けを実行した(以下これに基づく貸付金を「当座貸越による貸付金」という)。【丙14,15,19ないし22,26ないし29,35,36】
貸越極度額 4500万円
取引期限 契約締結の日から2年(その後平成15年9月9日まで延長された)
返済方法 随時任意の金額を返済し,残額を取引期限に一括返済する。利息支払日は毎月10日とする。
利 率 年2.50%(年365日の日割計算)(平成11年9月10日以降年3.40%に,平成13年9月10日以降年2.65%に[いずれも年365日の日割計算]変更された)
平成15年1月23日時点の当座貸越による貸付金元金残高は4500万円である【丙56】。
(5) 信用保証委託契約1
原告信用保証協会はこれに先立つ平成9年9月4日,N社との間で,当座貸越による貸付金についてN社が原告信用保証協会に対し以下の約定でその保証を委託するとの信用保証委託契約を締結した(以下「信用保証委託契約1」という)【丙12,13,19ないし22,26ないし29,35,36】。
ア N社が借入金債務の全部または一部の履行を遅滞したため原告信用保証協会が被告M信金から保証債務の履行を求められたときは,N社とその保証人に通知,催告をしなくても弁済することができる。
イ 原告信用保証協会がアの弁済をしたときは,N社は原告信用保証協会に対しその弁済額とこれに対する弁済の日の翌日から年14.6%の割合(年365日の日割計算)による損害金を支払う。
(6) 信用保証1
原告信用保証協会は信用保証委託契約1に基づき平成9年9月10日に元本極度額を4500万円としてN社の被告M信金に対する当座貸越による貸付金債務を同社と連帯して保証し,取引期限の延長後も同様に連帯保証した【丙19,20,26,27,35,36】。
(7) 証書貸付金1
被告M信金は上記信用金庫取引約定に基づき平成10年2月27日N社に対し以下の約定により1500万円を証書貸付けの方法で貸し付けた(以下「証書貸付金1」という)【丙60】。
最終返済期限 平成17年2月20日
元金返済方法 平成10年3月20日を第1回とし以後毎月20日に18万円ずつ返済し,最終返済期限に完済する。
利 率 年3.95%(年365日の日割計算)
利息支払方法 平成10年3月20日を第1回とし以後毎月20日までにその日までの分を支払う。
損害金 年14.5%(年365日の日割計算)
(8) 信用保証委託契約2
原告信用保証協会はこれに先立つ平成10年2月25日,N社との間で,証書貸付金1についてN社が原告信用保証協会に対し上記・と同じ約定でその保証を委託するとの信用保証委託契約を締結した(以下「信用保証委託契約2」という)【丙58,59,61,62】。
(9) 信用保証2
原告信用保証協会は信用保証委託契約2に基づき平成10年2月27日に被告M信金に対してN社の被告M信金に対する証書貸付金1の債務を同社と連帯して保証した【丙61,62】。
(10) 証書貸付金2
被告M信金は上記信用金庫取引約定に基づき平成10年10月21日N社に対し以下の約定により5000万円を証書貸付けの方法で貸し付けた(以下「証書貸付金2」という)【丙66】。
最終返済期限 平成15年10月20日
元利金返済方法 平成10年11月20日を第1回とし92万2854円,
以後毎月20日に91万9698円ずつ返済し,最終返済期限に91万9688円
を返済して完済する。
利息 年3.95%
損害金 年14.5%(年365日の日割計算)
(11) 信用保証委託契約3
原告信用保証協会はこれに先立つ平成10年10月14日,N社との間で,証書貸付金2についてN社が原告信用保証協会に対し上記・と同じ約定でその保証を委託するとの信用保証委託契約を締結した(以下「信用保証委託契約3」という)【丙64,65,74,75】。
(12) 信用保証3
原告信用保証協会は信用保証委託契約3に基づき平成10年10月21日に被告M信金に対してN社の被告M信金に対する証書貸付金2の債務を同社と連帯して保証した【丙74,75】。
(13) 期限の利益喪失
N社が
当座貸越による貸付金の利息36万8751円
証書貸付金1の分割元利金5か月分
証書貸付金2の分割元利金8か月分
その他の証書貸付金の分割元利金8か月分
の支払いを遅滞したので,被告M信金は,平成14年11月20日,N社に対し,上記各金員を同月25日までに支払わないときは同日をもって期限の利益を喪失させると通知した【丙38,39】。
(14) 原告信用保証協会は,信用保証債務の履行として,平成15年6月16日に被告M信金に対し以下のとおりの弁済をした【丙57,63,76】。
ア 当座貸越による貸付金
元金 4500万円
利息・損害金 75万3406円
合 計 4575万3406円
イ 証書貸付金1
元金 582万円
利息・損害金 19万4618円
合 計 601万4618円
ウ 証書貸付金2
元金 1777万3280円
利息・損害金 76万5516円
合 計 1853万8796円
この保証弁済の結果,原告信用保証協会は法定代位によりN社に対する以下の権利を取得した。
ア 当座貸越による貸付金
元金 4500万円
利息・損害金 75万3406円
未確定損害金 4500万円に対する平成15年6月17日から支払いずみまで約定の範囲内の年14.5%の割合(年365日の日割計算)による金員
イ 証書貸付金1
元金 582万円
利息・損害金 19万4618円
未確定損害金 582万円に対する平成15年6月17日から支払いずみまで約定の年14.5%の割合(年365日の日割計算)による金員
ウ 証書貸付金2
元金 1777万3280円
利息・損害金 76万5516円
未確定損害金 1777万3280円に対する平成15年6月17日から支払いずみまで約定の年14.5%の割合(年365日の日割計算)による金員
(15) 一部弁済と原告信用保証協会のN社に対する債権残額
原告信用保証協会は平成16年4月21日,債務者をN社とする不動産競売事件において配当金を受領し,これを次のとおり弁済充当した。
ア 当座貸越による貸付金
元金に対し 305万0656円
利息・損害金に対し 75万3406円
合計 380万4062円
イ 証書貸付金1
元金に対し 30万6741円
利息・損害金に対し 19万4618円
合計 50万1359円
ウ 証書貸付金2
元金に対し 77万6163円
利息・損害金に対し 76万5516円
合計 154万1679円
上記一部弁済の結果,原告信用保証協会が法定代位によりN社に対して取得した債権の残高は以下のとおりとなった。
ア 当座貸越による貸付金
元金 4194万9344円
確定損害金 554万1780円(4500万円に対する平成15年6月17日から平成16年4月21日まで年14.5%の割合〔年365日の日割計算〕による金員)
未確定損害金 4194万9344円に対する平成16年4月22日から支払いずみまで約定の範囲内の年14.5%の割合(年365日の日割計算)による金員
イ 証書貸付金1
元金 551万3259円
確定損害金 71万6736円(582万円に対する平成15年6月17日から平成16年4月21日まで年14.5%の割合〔年365日の日割計算〕による金員)
未確定損害金 551万3259円に対する平成16年4月22日から支払いずみまで約定の年14.5%の割合(年365日の日割計算)による金員
ウ 証書貸付金2
元金 1699万7117円
確定損害金 218万8791円(1777万3280円に対する平成15年6月17日から平成16年4月21日まで年14.5%の割合〔年365日の日割計算〕による金員)
未確定損害金 1699万7117円に対する平成16年4月22日から支払いずみまで約定の年14.5%の割合(年365日の日割計算)による金員
【B・C事件共通】
(16) 被告Lの不動産所有
被告Lは別紙物件目録1〜14記載の土地と同目録15記載の建物(以下「本件土地建物」といい,個別に特定する場合は「本件土地1」など目録の番号で特定する)を所有している【甲1ないし15】。
(17) 抵当権・根抵当権設定登記
本件土地1〜7には別紙登記目録1〜4記載の各根抵当権設定登記が,本件土地8〜14と本件建物には同登記目録5記載の根抵当権設定登記と同登記目録6記載の抵当権設定登記がされている(以下,別紙登記目録記載の登記は「本件登記1」など目録の番号で特定する)。
なお,被告Lは,それぞれの不動産について上記根抵当権ないし抵当権の最初の設定登記がされた日には,すでにその所有者となっていた【甲1ないし15】。
【B事件】
(18) Oに対する貸付け
被告M信金は平成8年5月30日Oに対し以下の約定で6000万円を貸し付けた【乙5の1】。
最終返済期限 平成28年5月10日
元利金返済方法 平成8年6月10日を第1回とし24万1996円,以後毎月10日に34万6436円ずつ返済し,最終返済期限に34万6353円を返済して完済する。
利 息 年3.45%(年365日日割計算)
損 害 金 年14.5%(年365日日割計算)
2 争点
【A事件】
被告Lの連帯保証の有無
〔原告信用保証協会の主張ー請求原因〕
(1) 本人契約
ア 被告Lは,N社が
平成9年9月10日当座貸越による貸付金に関するダイナミックローン契約
(当座貸越契約)を締結した際,
平成10年2月27日証書貸付金1の1500万円を借り入れた際,平成10年10月21日証書貸付金2の5000万円を借り入れた際,それぞれ,N社が被告M信金に対して負担する債務を同社と連帯して保証した。
イ 被告Lは,原告信用保証協会とN社とが信用保証委託契約1〜3を締結した際,N社の原告信用保証協会に対する債務を同社と連帯して保証し,原告信用保証協会に対して以下のことを約した。
(ア) 原告信用保証協会が被告M信金に対して弁済したときは,被告Lは原告信用保証協会に対し求償金全額を償還する。
(イ) 原告信用保証協会が被告M信金に対して弁済をしたときは,被告Lが借入金債務につき被告M信金に提供した担保の全部について原告信用保証協会が被告M信金に代位し,求償権の範囲内で被告M信金の有していたいっさいの権利を行使できる。
(2) 代理人契約
ア 上記・の各契約は,被告Lの息子であるOまたはその妻のQとの間で締結された。
イ OまたはQは,上記各契約の際,契約関係書類に被告Lの署名押印をし,被告Lのためにすることを示した。
ウ 被告Lは,上記各契約に先立ち,OまたはQに対し,包括的に権限を与えた。
(3) 黙示の追認
ア 上記・のア,イと同じ。
イ 被告Lは,平成14年3月29日,被告M信金の職員からN社の債務の状況や担保権設定の状況を説明され,これを承認して,N社振出しの約束手形に保証人として署名押印するとともに本件土地建物とは別の自己所有の土地2筆に根抵当権を設定することを約し,よって上記・の各契約を黙示的に追認した。
〔被告Lの主張〕
原告信用保証協会が主張する被告Lとの間の各契約が書類上存在するのは事実であるが,いずれもOまたはQが被告Lに無断で被告Lの実印や印鑑登録カードを持ち出し,被告L名義を冒用して書類を作成したのであり,被告Lはこれらにまったく関与していない。
被告M信金の職員は,平成2年9月頃から平成14年3月29日までの11年余りの間,被告Lを店頭に呼び出して保証意思ないし担保提供意思を確認したことは一度もなかった。
被告LがOまたはQに対し契約締結の権限を与えたこともない。
被告Lが平成14年3月29日に被告M信金R支店で手形や契約関係書類に署名押印したのは事実である。
しかし,これは,被告M信金の職員が,N社に対して融資をするつもりがないのに,1000万円の融資をするのに必要な書類であると偽って被告Lをだまし,被告Lは錯誤におちいって署名押印したにすぎず,原告信用保証協会が主張する各契約を追認する意思などなかった。
【B・C事件】
被告Lの物上保証の有無
〔原告信用保証協会と被告M信金の主張ー登記保持権原の抗弁〕
(1) 本人契約
被告Lは,本件登記1〜6の登記内容のとおり,被告M信金のために,本件土地建物にN社(本件登記1〜5)ないしO(本件登記6)の債務を被担保債務とする根抵当権(本件登記1〜5)ないし抵当権(本件登記6)を設定することを約した。
本件登記6の抵当権の被担保債務は,上記1の基本的事実関係・に記載した貸付金債務である。
本件各登記はこれらの合意に基づく。
本件登記2について,被告M信金から原告信用保証協会に根抵当権が移転した経緯は,上記1の基本的事実関係・〜・記載のとおりである。
(2) 代理人契約
ア 上記・の各契約は,OまたはQとの間で締結された。
イ OまたはQは,上記各契約の際,契約関係書類に被告Lの署名押印をし,被告Lのためにすることを示した。
ウ 被告Lは,上記各契約に先立ち,OまたはQに対し,包括的に権限を与えた。
(3) 黙示の追認
ア 上記・のア,イと同じ。
イ 被告Lは,平成14年3月29日,被告M信金の職員からN社の債務の状況や担保権設定の状況を説明され,これを承認して,N社振出しの約束手形に保証人として署名押印するとともに本件土地建物以外の自己所有の土地2筆に根抵当権を設定することを約し,よって上記・の各契約を黙示的に追認した。
〔被告Lの主張〕
A事件に関する被告Lの主張と同じ。
第3 争点に対する判断
1 契約証書と登記手続A・B・C事件すべてを通じ,まず,原告信用保証協会と被告M信金の本人契約の主張から検討する。
原告信用保証協会は,その主張するとおりの連帯保証を被告Lがしたことの証拠として,下記のとおり,被告Lの署名押印のある契約証書を提出する。
当座貸越による貸付金丙1,12,14,21,28
証書貸付金1 丙1,58,60
証書貸付金2 丙1,64,66
原告信用保証協会と被告M信金は,その主張するとおりの物上保証を被告Lがしたことの証拠として,下記のとおり,被告Lの署名押印のある契約証書を提出する。
本件登記1の根抵当権乙1の1〜4
本件登記2の根抵当権丙82
本件登記3の根抵当権乙2の1・2
本件登記4の根抵当権乙3の1〜3
本件登記5の根抵当権乙4の1・2
本件登記6の抵当権乙5の1・2
これらの契約証書(以下まとめて「本件各契約証書」という)の内容は,原告信用保証協会の主張する連帯保証の事実,原告信用保証協会と被告M信金の主張する物上保証の事実とすべて合致する。また,これと登記の内容(甲1ないし15)によれば,本件各登記はいずれも本件各契約証書のうち本件各登記に関するもの(乙1の1〜4,2の1・2,3の1〜3,4の1・2,5の1・2,丙82)に基づいて行われたことを認めることができる。
したがって,本件各契約証書の被告L作成部分が真正に成立したものであるならば,争点に関する原告信用保証協会と被告M信金の本人契約の主張はすべて認めることができる。
これに対し被告Lは,本件各契約証書の被告L作成部分の成立を否認するが,押印が被告Lの印影であることは認める。
そして,この被告Lの押印は被告Lの実印によるものである(乙6の1〜3,13の1〜9,丙4,16)。
そうすると,反証のないかぎり,これらの契約証書の被告L作成部分は真正に成立したと推定される。
そこで,以下においては,この点についての被告Lによる反証が成功しているかどうかという観点から検討を進める。
2 Oと被告Lの供述
(1) 被告Lの息子であるOは次のように証言した。
ア Oが経営していたN社はもともと借金で操業しており,借金体質だった。
イ O自身は借金に抵抗がなかったが,被告Lは借金がきらいであり,頼んでも断られることがわかっていたから,Oは,N社あるいはOの借金について被告Lに保証や担保提供を頼んだことはないし,頼もうとすら思わなかった。
ウ O夫婦は被告L夫婦と同居しており,Oは,被告Lの実印や本件土地建物の登記済証(権利証)の保管状況をよく承知していたし,被告Lの印鑑登録カードも自由に利用していた。
エ イ・ウのような事情で,Oは,被告M信金から金を借り入れるにあたって保証人や担保提供が必要となったときは,すべて,被告Lに無断で,実印や登記済証を持ち出し(あるいは登記済証の代わりに保証書を利用し),これを用いて被告M信金との間の契約証書を作成して登記申請手続をしたり,あるいは印鑑登録カードを利用して印鑑登録証明書の発行を受け,これを被告M信金に提出した。契約証書の被告L名義の署名と押印は,多くの場合,Oの指示のもとに,N社の資金繰りを担当していた妻のQがした。
オ OやQは被告Lに見つからないようにさまざまな工作をしたし,被告M信金や原告信用保証協会から被告L宛てに来る通知書なども,自宅と同じ敷地内にあるN社の事務所で受け取るようにしていたので,被告Lが実印等の持出しに気づくことはなかった。
カ 被告Lが自分で被告M信金との間の契約関係書類に署名押印したのは平成14年3月29日が初めてであった。
このとき,被告Lは,O夫婦とともに被告M信金R支店を訪問し,その場で各種の書類に署名押印した。
しかし,これは,被告M信金の職員が,N社に対して融資をするつもりがないのに1000万円を融資するといってだまして呼び出したのであり,その融資のために被告Lの所有する土地2筆(本件土地とは別)を担保提供してほしいと言われ,Oも被告Lもよく事情がわからないままに書類の作成に応じたにすぎない。
(2) 被告Lは本人尋問において次のように供述した。
ア 被告Lは,借金といえば,昭和の年代に地元の農業協同組合から借入れをしたことがある程度で,ほかに金融機関から金を借りたことはない。
手形がどういうものかもわからない。土地を買ったことはあるが,実印は必要なかったし,司法書士にすべてをまかせていた。
イ このような次第で,被告Lは,自分の実印や登記済証の保管には関心がなく,妻にまかせていた。実印や印鑑登録証明書を使うこともなかった。
ウ OがN社を経営していたことは知っていたが,その経営状況はまったく知らなかった。商業登記簿上自分がN社の取締役になっていることも知らなかった。
N社の経営についてOから相談を受けたことはないし,N社の保証人になってほしい,あるいは担保提供をしてほしいと頼まれたことも一度もない。
エ 平成14年12月にN社が事実上倒産した後,平成15年4月頃にフルーツ山梨農業協同組合から責任追及の裁判を起こされ,そのときに初めて,被告L名義の多数の契約関係書類をOとQが偽造していたことを知った。
オ 平成14年3月29日,被告M信金R支店に連れて行かれたのは事実だが,その時点ではそこがどこなのかわからなかった。
その場で,Oから,被告M信金から1000万円を融資してもらえるので被告L所有の2筆の土地(本件土地とは別)を担保提供してくれ,と言われ,被告M信金の職員からも同じようなことを言われた。
そのほかの説明は受けず,ただ,示される書類に署名押印しただけである。
(3) Qの作成名義のある陳述書(甲28)には,上記各供述内容にそった記述がある。
3 検討
Oと被告Lは親子であり,同居していたのであるから,被告Lに無断でOないしその妻のQが被告Lの実印,登記済証等を持ち出して被告L名義の書類を偽造することは,ありえないとはいえない。しかし,Oと被告Lの供述する内容については,次の点を指摘することができる。
第1に,Oは,被告Lに保証や担保提供を依頼しても断られることがわかっていたので最初から被告Lに無断で書類の偽造をしたというが,この経緯はいかにも不自然である。
自分の経営するN社にとって保証や担保提供の必要があれば,まず同居の親であり資産を有する被告Lに協力を求めるのが自然な話である。
しかも,被告Lは,その供述にもかかわらず,昭和51年12月にはV信用組合(当時)のために自己所有の本件土地8に根抵当権を設定したことがあるし(甲8),平成3年11月当時はW信用組合(当時)に対して手形貸付金250万円の債務を負担していた(乙25)。
本人尋問の後に被告Lが作成した陳述書によれば,OないしN社に対して500〜600万円の現金を貸したこともあるという(甲31の4頁)。
さらに,平成14年3月29日,被告M信金R支店において,N社の債務を担保するため,被告Lがその所有する2筆の土地(本件土地とは別)に根抵当権を追加設定したことは(甲16,17),被告L自身も認めている。
このように,被告Lは必ずしも借金とは無縁の人ではないし,N社あるいはOのために資金援助や担保提供する意思もあったのだから,被告Lが保証や担保提供をすることはありえないとOが頭から決めつける理由はなかったはずである。
なぜ,最初から,文書偽造や詐欺といった犯罪に該当するような行為に手を染めようとしたのか,Oから合理的な説明はない。
第2に,証拠(甲28,証人O,被告L)によれば,本件各契約証書の被告L名義の署名の多くはたしかにQが書いたもののようであるが,本件登記1に関する平成2年9月18日付け根抵当権設定契約証書(乙1の1)にある被告L名義の署名は,Qのものと思われる他の証書の署名とは明らかに特徴が異なり,被告L自身が自筆であると認めている被告L名義の署名(乙3の3,5の2,7の1〜9,8,9,12の上にあるもの)にきわめてよく似ている。被告Lは否定するが,その特徴からして,これが被告L自身の署名である可能性は非常に高い。
これはO・被告Lの供述内容と根本的に矛盾する証拠である。
第3に,被告Lの実印や本件土地建物の登記済証をどうやって持ち出し,これを返却したか,印鑑登録証明書をどうやって取得したか,という具体的な点になるとOの証言はきわめてあいまいである。また,その内容も,被告Lの供述と合致しない部分がある。
このように,重要な事実について明確な証言ができなかったり,供述内容にくいちがいがあることは,Oと被告Lの供述の信用性を大きく失わせる。
なお,Oと被告Lは,尋問の後,法廷ではうまく説明できなかったなどとする釈明を記載した陳述書を提出したが(甲30,31),あとからとりつくろったものとしか考えられず,その信用性は認められない。
第4に,N社の商業登記簿謄本(丙6,9)によれば,被告Lは平成2年9月以降N社の取締役に就任しており,その後まもなく被告Lの妻のXもN社の監査役に就任している(証人O,被告L)。また,被告LはかつてP社に勤めていたことがあったし,N社になってからも,N社のために働き,N社から報酬の支払いを受けていた(証人O,被告L)。これらの事情は,N社の経営のことはまったく知らなかったしOから聞いたこともないという被告Lの供述とはあいいれないといわざるをえず,その供述の信用性を疑わせる。
第5に,Oは,平成8年,それまで被告Lとともに住んでいた自宅をとりこわして被告L所有の土地の上に建物を新築しており,その新築資金として,上記第2・1の基本的事実関係・に記載したとおり,被告M信金から6000万円を借り入れている(乙5の1,証人O)。この借入金債務の担保が本件登記6の抵当権である。そして,O夫婦と被告L夫婦はこの新築建物でまた同居している(証人O,被告L)。
このような事情がありながら,被告Lは,Oがどのようにして新築資金を調達したのかにまったく関心を抱かなかったし,Oに聞くことすらしなかったと供述する。
しかし,自分たち親子が住む家を新築するのに,しかも,古い家をこわしてまで新築したのに,その新築資金について親子で話しあいをしないなどというのはまったく常識に反する不自然なことというほかない。
第6に,被告M信金職員のSは,平成8年の5月か6月頃,本件登記5の根抵当権と本件登記6の抵当権の設定に関して,設定者(所有者)である被告L自身の意思を確認する必要があると考え,被告Lの自宅を訪ねて被告Lに面会し,担保提供の意思を確認したと証言する。この証言は,その時期についてはあいまいであるものの,被告Lに面会するにいたった経緯,面会の際の状況などは具体的であり,その信用性を一概に否定することはできない。
第7に,平成14年3月29日に被告M信金R支店において被告Lが各種の書類に署名押印したことは被告Lも認めているが,その意味内容については,被告M信金職員のTの証言と,O・被告Lの供述は対立している。Tは,N社,OおよびN社関係会社のU社に対する債権を保全するため,保証人かつ物上保証人である被告Lに来てもらい,変更契約証書や念書,さらに書換手形に署名押印してもらったという。
これに対し,Oは,被告M信金がN社に対し1000万円の融資をしてくれるということであり,かつ,そのためには被告Lにあらたに担保提供をしてもらいたいということだったので被告M信金R支店を訪ねたにすぎず,Tの証言するような説明は受けていないと証言する。被告Lも,Oとほぼ同じような供述をする。
しかし,Oの証言内容は,平成14年3月29日(この日は金曜日である)の当日に,月末の決済資金として1000万円の融資が受けられたと思ったとしながら,その後入金の確認はしなかったとするなど不自然きわまりないうえ,Q作成名義の陳述書(甲28)の内容と比較すると,N社の経営者である自分の責任を棚に上げてQに責任を転嫁しようとする傾向が顕著であり,信憑性に乏しいというほかない。
被告Lの供述も,担保提供の話はその場で初めて聞いたとしながら,Qが被告Lの実印を勝手にもってきたことをさして不審に思わず,とがめることもしなかったと言うなど,不自然である。そうすると,平成14年3月29日のできごとに関するO・被告Lの供述内容はともに信用性が低いといわざるをえず,これは,両名の供述全体の信用性も疑わせる。
以上の諸点を考慮すると,Oと被告Lの供述する本件各契約証書作成の経緯は不自然であるし,客観的な証拠にも反し,信用することができないといわざるをえない。
ほかに反証もないから,結局,本件各契約証書の被告L作成部分は真正に成立したものと推定されるので,そのように認定することができる。
4 結論
上で検討したとおり,本件各契約証書と本件各登記により,争点に関する原告信用保証協会と被告M信金の本人契約に関する主張事実をすべて認めることができるので,A事件については原告信用保証協会の請求原因事実がすべて認められ,B・C事件については被告M信金と原告信用保証協会の登記保持権原の抗弁事実がすべて認められる。
よって,A事件の原告信用保証協会の請求はすべて正当であり,B・C事件の被告Lの請求はすべて理由がないので,主文のとおり判決する。
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